市民参加・協働のまちづくり
| [書評]まとまらない意見をまとめる合意形成の技術 |
2004/4/19
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●ここ数年、ワークショップやファシリテーションに関する本が、多く出版されるようになった。住民参加やまちづくりといった、実際にワークショップが使われることの多かった分野をテーマにしたものは、10年以上前から出版されているが、ここ数年は、もっと多様な分野の多様な形式のワークショップを紹介するものや、逆にビジネス分野に特化して具体的ノウハウを扱うものが目立つようになってきている。
そういったなかで、最近出版された『まとまらない意見をまとめる合意形成の技術』(山路清貴 西東社 2004年5月10日発行 1,300円+税)は、どんな分野でも汎用的に使えることを志向しつつも、特に住民参加やまちづくりといった分野で役立つようなものとなっている。その意味では、このところのビジネス分野のワークショップノウハウ本では物足りなさを感じていた、住民参加やまちづくりの分野に関心のある人にとっては、待望の書であると言える。
●この本は、次のような目次になっている。
第1章 「合意形成」とは、どういうことか
第2章 優れたリーダーのトップダウンより各人の合意が勝ることを証明する〜NASAの「月で遭難したら」のテスト
第3章 大きな合意を生む、ちょっとした準備
第4章 話し合いが始まる前の合意形成術
合意形成術その1 参加者の気分をほぐす「原風景で自己紹介法」
第5章 話し合いの冒頭でつまずかないための合意形成術
合意形成術その2 参加者全員に発言してもらう「ラウンド意見交換法」
合意形成術その3 別な立場に立ってもらう「RPG討論法」
合意形成術その4 議論の方向を絞り込む「カード・ディスカッション法」
第6章 滞った話し合いの突破口になる合意形成術
合意形成術その5 専門的な話し合いでも意見が出せる「利用イメージづくり法」
合意形成術その6 具体的な意見を聞く「暮らし追跡地図法」
合意形成術その7 印象を言葉で表す「雰囲気評価法」
第7章 誰もが納得する結論を導き出す合意形成術
合意形成術その8 多くのアイデアを絞り込む「ランキング・ミーティング法」
合意形成術その9 意見に重要度をつける「シール・アンケート法」
合意形成術その10 大勢の集まりで合意の方向を探る「カード・アンケート法」
第8章 真の「合意形成」への6つの秘訣
●第1章や第8章などで合意形成のエッセンスを伝える一方、具体的な手法を10個に限って紹介している。これらの手法は、どれも特別な道具を必要とせず、著者が「三種の神器」と呼ぶ「個別意見を書きとめる付箋紙(ポスト・イット)」「意見を整理する模造紙」「筆記するマーカー類」があれば、手軽に実施できるものばかりである。
また、手法の紹介の仕方も、実際にあった事例に即して行うのではなく、モデル的なケースを想定して手順が示してあり、わかりやすい。特に、その手法を使う意味を参加者に理解してもらうための、「司会・進行役の最初の一言」まで示されているのは丁寧であり、初心者のファシリテーターにとっても、その手法のエッセンスを理解するうえでの助けになる。
●書評を書いている筆者のような、すでにいくつものワークショップを経験してきたファシリテーターにとっては、こういった本を読むのは、自分が日頃使っている手法を整理して捉えるよい機会となる。特に、自分自身の経験のなかから導いて行うようになったことが、こういった本のなかにも書いてあると、そのやり方への自信にもつながる。
例えば、この本のなかには、筆者が経験的に行っている次のような点と、一致することが書かれていた。
(1)KJ法のように参加者自身に付箋紙に書き込んでもらうのでも、記録係が模造紙にいきなり記録するのでもなく、記録係が参加者の意見を付箋紙に書き取って模造紙のうえで整理する方法もある。参加者間で意見が活発に出され合う状況では、わざわざ各自に付箋紙に書いてもらうと議論の勢いを削いでしまうし、記録係が議論の方向を予測しながら整理して記録するのも大変であるため、中間的なこのやり方が使いやすい。
(2)アイデアを出し合う前に、時間をとって、手元にアイデアをメモしてもらう。各自が準備をすることで、全員が発言できるようになる。また、いきなり議論をするのでは、最初に提起された話題に引っ張られたり、急に発言を振られたときに、思いつきで他人の意見を焼き直してみるだけだったりするのを、防ぐことができる。
(3)自己紹介は、「人となり」がわかるような工夫をする。自己紹介で名前を覚えてしまうのは、ほとんど不可能である。そこで、どんな人がいたかという印象だけでも残るように、「自分と言えばこれ」というものを動作で表してもらい、他の全員でその動作を繰り返してみる、という自己紹介を、筆者はよく使っている。
(4)結論を出す前に、1度は冷静になって考える時間をとる。ワークショップは、通常、企画者が設定したプログラムに沿って進行されるが、そのプログラムが「人間の思考の手順」からみて強引なものだったりすると、結論が正しいものであるとは言えなくなる。そのため、結論の「最終案」には最終回の1回前にたどり着き、1度それを持ち帰って、最終回で結論を出せるようにするのがよい。
●この本で紹介されている10個の手法は、目次にある通り、4つのタイプに分類されている。筆者なりに言い換えると、第4章はアイスブレークの手法、第5章は意見を出し合うための手法、第6章は専門的な課題に取り組むための手法、第7章は選択肢を絞っていくための手法と言える。もっとも、第5章の「カード・ディスカッション法」は、第7章の「ランキング・ミーティング法」とほぼ同じ手法であり、選択肢を絞っていく効果が期待される手法である。
この本には、「合意形成の技術」というタイトルが付けられている。その意味では、第7章の手法が、意見を収束させる段階に使われるものであり、特に重要な「合意形成の技術」と言えるかもしれない。しかし、その第7章の手法にしても、この手法を使えばたちどころに合意が形成されるという鮮やかな「瞬間芸」であるわけではない。第7章の手法に出てくる投票や多数決といったことも、最終的な決着をつけるためにあるのではなく、参加者の間での意見の傾向を知ったうえで、さらによりよい選択肢を洗練させていくために行われるのである。つまり、第4章から第6章にかけての手法も使いながら、参加者同士の信頼関係を築き、多くの意見が存在することを知り、みんなが大切にしたいと思う基準を明らかにするといったプロセスを踏むことで、「納得性」を高めていくことが合意を生むというのが、この本の根底に流れる「合意形成の技術」の考え方であると言えよう。
※ 「[書評]市民参加条例をつくろう」、「[書評]まちに森をつくって住む」、「[書評]市民会議と地域創造」、「[書評]市民自治の憲法理論 <憲法記念日に読む一冊>」もご覧ください。
(東京ランポスタッフ・庄嶋 孝広)
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